※グロい表現あります。
歪んだ者達が蔓延る外界。
12号はまた「世界を、己を癒す」ために神経塔へ向かっていた。
が、足が止まってしまう。
神経塔の前に見慣れる女性が座り込んでいたからだ。
(誰だろう・・・・?)
近づくたびに、女性の後姿がはっきりわかるようになる。
服はそこまでボロボロではなく、髪も綺麗に結ってある。
これといって、歪んだ様子はない。
では浮遊少女か?とも12号は考えたが、明らかに彼女の足は荒れた大地についていた。
声をかけたいが、声が出ない。
まいったな・・・と思っていた矢先、彼女が気配に気づいたのか振り返った。
茶色の瞳が優しく細められた。
多少のやけどは負っているようだが、綺麗な肌だ。
「あら、見かけない顔ね。どなた?」
(・・・・・・・・・・いや、それはこっちの台詞なんだけどな・・・)
「ふふ。寒そうな服ね、大丈夫?」
どこもおかしくないただの女性かと思ったのだが、やはりこの世界でそれはないようだ。
「・・・・・これ?彼はね、私の大切な人なの。
一緒にいたいっていう私の願いを、神様はかなえてくれたのよ。」
彼女は宝物を持つように、「大切な人」の頭のみを持っていた。
よく見ると、片手は既に彼の頭と融合しており、「持つ」という表現ではおかしいかもしれない。
大熱波の影響を受けたのか、時間がたっているのか、それはもはや頭蓋骨だけに近いものだった。
「大熱波で死んだわけじゃないのよ、彼。もうちょっと前に殺されたの。
それを知ってすごくショックだったわ。横たわる彼の頭に触れながら・・・・・あ、そのときは全身あったのよ?
ずっと泣いていたら、大熱波が起こって・・・・・・。」
彼女の悲しみは「彼の死」だけのようだ。大熱波に悲しみを抱いている様子はない。
むしろ、とても喜んでいる。
「こんな」彼と一緒なのを喜んでいる。
「きっと、彼を殺した人は大熱波で死んでしまったわ。彼を見捨てた私の両親、兄弟、街の人も。」
彼女にはとても似つかない、とても不気味な顔でにやっと笑った。
(ああ、彼女も「歪んで」しまったんだ・・・・・・。)
「だからよかったの。」
そういいながら、彼女は立ち上がった。
「これからは自由なの。彼と一緒、ずっといっしょだから。」
ただ、(もったいない)と12号は思った。
彼女の微笑みは、あんなに優しいのに。
「名前を聞いていなかったわね。私は。・・・・・貴方は、言える?」
12号は首を横に振った。は残念そうに「そう・・・・」といった。
「彼の名前はね・・・・ふふ、私だけの秘密よ。」
花のように笑い、彼の頭をなでる彼女・・・・が、
(僕はどうやら好きみたいだ。)
短い時間の中だが、その微笑みに暖かさを感じた。
(ねぇ、もっと笑って)
(たとえそれが貴女の「大切な人」に関してのことでもかまわないから。)
手の上、愛しい人。