私、貴方の事分かってなかったのかもしれない。
ううん、分かっていなかった。


貴方は昔から「自由な人」だったから。
いつも自由だったから。

このまま私が縛っていたら、貴方は自由じゃない。


愛していたわ。

ありがとう。

だから、ゆっくり休んで。

大熱波で死んでいってしまったみんなと一緒に。



***




(え・・・・・・・・?)



12号は目を見開いた。
神経塔で死に、再び戻ってきた矢先の出来事だった。


「お願い、『彼』を浄化して。」

は神妙な面持ちでそういった。顔は本気だ。


今までずっと大切に持っていた彼を「浄化して」・・・・・・・?
どうしたんだい?君は。


「浄化したらもう元には戻せないことは知っているわ。
 でも、賭けてみたいの。」


(・・・・・・・・・?)


「私、彼を愛しているわ。彼と一緒にいられてとても幸せ。
 ・・・・・・でも、彼は幸せなのかしら。」



はじめてみた彼女の「悲しい顔」。



「私は自分の事ばかりで、彼のことを考えなかったわ。
 『死』の先にあるのは『自由』よ。でも、私が彼をもっているのでは
 『本当の自由』はどこにあるの?
 現界で骨になった自分を抱く恋人なんて、私・・・・・嫌だわ。
 『もういいから。解放していいよ。解放して。』って思っちゃうわ。」



私も、貴方も、「自由」なようで「自由じゃなかった」

実は お互いがお互いを縛っていたのよ。


「彼も私から本当に離れられない、私も彼から離れられない。
 ・・・・・・・・・・・・これじゃ・・・・駄目なのよね。」


結晶(イデアセフィロス)は彼の中にある。
これが「彼」の中にある状態では、彼は自由じゃないの。

まだ「器」の中に閉じ込められているの。
解き放ってあげたいの。




「・・・・・ここまで言えば、あなたも納得してくれるわよね?
 お願い。彼を。」




浄化して。






12号は初めて「彼」に触れた。

彼女は俯いている。長い睫がふるふるとゆれる。
なぜか、胸が締め付けられそうになった。





あたりが一瞬だけ、「彼の色」に輝いた




***





「おお、12号じゃないか。隣は・・・・・・新しい客だな。名前はなんという?」

です。貴方はバロック屋でしょう?」

「ああ、いかにも。」

「彼のバロックを・・・・見てほしいの。」



の手にはもう骸骨はない。
代わりに綺麗に輝く結晶(イデアセフィロス)がある。

は初めて、その手から「彼」を離した。


「ふむ・・・・どれどれ・・・・

 『  解放 自由 感謝  』 ・・・・これだけのようだ。」


「ううん、これで十分。ありがとう。」


は嬉しそうに、そして優しそうに微笑んだ。
少しの寂しさを含んでいたが、瞳は希望に満ちていた気がする。



「これでね、よかったのよ。浄化してもらって。」


彼女は12号を見た。


「12号、本当にありがとう。」



彼女が優しく微笑むのと同時に12号はに抱きついた。


「っと・・・・ちょっと、ふふ、どうしたの?」

「・・・・・・。」

12号の背中に彼女の腕がまわった。
そっと抱きしめられる。


「貴方はひとりで頑張っているんだものね。
 私も一人で頑張らなくちゃ。」



(ひとりじゃないよ。僕がいる。
 寂しかったらいつでも僕が側にいるよ。)





が、頬を赤らめながらはにかんだ。




なんだか伝わった気がした。














彼に彼女に「自由」 を