「思いっきり走りたいな。」




貴方は私にそういった。
めったに無い神経塔の外でのおやつ。すごく嬉しかった。
嬉しすぎて、あたしは何も考えずに返答をしてしまった。


「走ればいいじゃん。」

「・・・・・・・・。」


何も言わなくなった彼。あたりまえだ。

彼は走れない。実際は走れるかもしれない。
でも、双子の兄と体が繋がっている以上、走れないと思う。

(ああ、あたし最低だ・・・・・・。)



「いつか、走れるといいね」


これがあたしの考えた新しい返答。
なのに、貴方ったら更に落ち込んじゃって。


「その時は、きっと兄さんと離れ離れなんだよ・・・・?」

「あ・・・・・そっ、か。ごめんね」

「なんで が謝るの?僕が無理なこと言ったから・・・・ごめん」

「ううん・・・・ごめん、ね。」







そう、こんな会話をしたのは何年も前。
貴方の兄、13号がまだ生きていた時の事だね。



***






あれからもう何年も経ってる。
13号が死んでしまってからの彼は仕事上手な静かな人になっていた。
周りの人が12号を哀れみの目で見る。

それを打ち返すように、あたしはいる。彼の側に。



久々に12号と外へ出てみた。(特別地区から出たわけじゃないけど。)
上級天使に無理言って、2人一緒に休暇をとった。

(あの時の上級様は忘れない・・・・・。)


「風が気持ちいいね、12号。」

「そうだね、 。」


12号が優しく微笑んだ。風がふわりと舞う。

12号の笑顔が見れるのは、あたしの特権となっていた。
他の人の前では、昔みたいに笑ってくれないから・・・・・。


「ねぇ、 。」

「ん、何?」

「あの時とおんなじだね、空が。」

「・・・・・・あぁ、初めて外でおやつ食べた時?」


12号の馬鹿、思い出しちゃったじゃない。
あんな綺麗な空、その日もろとも忘れようとしてたのに。

途端、12号があたしの手を掴んだ。


「ねぇ、走ろうよ。」

「え?」

「ほら、一緒に、ね?」



彼は走り出した。あたしも走り出す。
彼の足は、そんなに速くなかった。あたしも最近走らないから遅い。

マルクト教団の服を着て、偽の羽の生えた2人の信者が、走っているんだ。


彼の表情は、読めない。
(ねぇ、何を考えているの12号。何を思っているの?)


しばらくして12号のペースが落ち、徐々に停止へと近づいていった。
そして、止まった。



「・・・・・走れたね。」

「・・・・うん。」

「僕、思いっきり走っちゃった。」

「・・・そっか。」



短い会話のあと、彼は掴んでいた私の手を優しく放した。
そして、私に背を向けた。


「もうちょっと走らせて。・・・・ 、待っててくれる?」

「うん、いつまでも待つよ。」

「ありがとう、・・・・・・・・・・ごめんね」



彼の表情が読めない。ううん、違う。
あたしが見ようとしなかった。


段々彼が小さくなる。その姿が儚くて、消えそうな気がした。


あたし、昔から視力は良かった。
自慢だった。胸を張っていえた。

でもね、今は胸なんか張れないの。
胸の置くがギュッと締め付けられて、張れそうに無いの。





遠い彼が、走るのをやめた。
あたしのいる所からずっと遠くで。


「汗」なんかじゃないの。
「涙」をぽろぽろ流していた。


音も無く静かに、ただ涙を流していた。
頬を伝って、いくつも跡を足元につくってた。







あたしは何も言え無かった。



























(ゴメンネ 、でも許して。)
(今だけは泣かせて欲しいんだ。)
(もう、きっとなんか流さないよ。)









後書

恋愛要素あんまり無くてすいません・・・・