とっても紳士的で、カッコいい天使様の噂を聞いたの。





***





クラスの女子の間では、何度も何度も話される噂。
彼の話をする時は、どんなに男っぽい友達も、乙女のようにキラキラしていた。


「髪がね、金色って噂だよ!」

「あれ?銀じゃなかったっけ?」

「どっちにしろ、カッコいい事にかわりないのよ!」



毎日毎日、飽きもせず王子様の話をするお姫様のように。
もう、その辺の男なんか見れません!って子もいた。


「ああ・・・・・皆噂ばっかりで馬鹿だな。」って、馬鹿にしていた私だったけど、
噂を何度か聞いていくうちに、彼に会ってみたいと思ったの。



「ねぇねぇ !!上級様にもし会えたらどうする??」

「まず、挨拶からじゃないの?」

「そうね!彼はなんて言うのかしら・・・・・・?」

「ていうか・・・会えるの?」

「もう!!いったじゃない!!【もし】、よ!!!」



彼に会うためには、教団に入らなくてはいけない。
でも、教団に正式に入れるのは、教団に能力を認めてもらえた、
いわゆる「才能のある人」または「最大限の努力をしてきた人」だけ。



所詮、私は一般人。

素敵な天使・・・・上級天使様には、永遠に会えない存在なの。
例えるなら私達は、王子様に夢見るその辺の召使に近いのね。










そんな恋する乙女達も、今では大熱波で自己をなくし、
醜い異形として過ごしているのね。





ああ・・・・・笑えるわ。




***





そう、私は皆とは違った。ただの一般人の癖に、ね。
大熱波の影響を受けたのに、私は異形にならなかった。



クラスメイトも、先生も異形になり(または熱さに耐えられなくて死んだわ)、
私の事を襲おうとする。
でも私は体質変化により、あなた達の刃も、銃弾も、すり抜けていくの。


私は自我を持っている。私は記憶を持っている。
私は感情を持っている。私は思い出を知ってる。

あなた達はもう、何も持っていないの。





だからね、悲しいの。


大切な友達が歪んでいくのを間近で見て、悲しくて泣いた。
泣いて泣いて、私の声はカラカラに枯れた。

そして悲しみの奥底まで行っていた私には、あるはずの感情が消えていた。





そんな時見つけたのが、おぞましくも佇む神経塔。
もう、ゲートなんかない。門番もいなかった。
皆、皆異形になっていたわ。

だから、私はかまわず進んだの。






そして、上級様に会えた。




噂は本当だったのね。


金色の髪、赤い瞳、整った顔立ち。
「感覚球」に刺さっているのに、顔を歪ませもしない。
それが、どんなにありえない事かも理解している。



けどね、嬉しかったの。
憧れの彼に会えたことよりも、


1人ぼっちじゃない自分に。



失礼ながら、途中で会った皆さんは正直電波系。
まともだと思った年の近い男の子も、「天導をみつける」ってうるさいし。
私の心配をし、話しかけてくれるのは彼だけだったの。








ねぇ、皆聞いてよ。


私・・・上級様の側にいるんだ。
あなた達の噂どおり、綺麗な髪の毛のイケメンよ?

優しい人で、私のことを心配してくれるの。
歌も歌ってくれる、お茶目な人なの。


ねぇ、羨ましいでしょう?
今度、会わせてあげようか?

そうね、あの店のレモンティーおごってくれるならね。








もう、そういって話せる友達はこの世にいない。
いても、もうあなた達とは遠いものになっている。

「あの店」も、大熱波で欠片も無く消えたわ。



私の心には、もう上級様だけ。






私は、声を振り絞った。








「・・・・・・私もいっそ、異形になりたかった・・・・・・・・。」







乾いたはずの涙が、こぼれていった。






















いてい て、
全て
れてしまえれば 。



(それでも、思い出と過去は消えやしないの。)