不良が爆笑している中、彼女はトンファーをゆっくり持ち直し、
首を掴んでいる不良の腹を殴った。
「ヘブッ・・・・・!!こんの野郎・・・・」
首が自由になり、地面に崩れた彼女はすぐに立ち上がり、
残った数名を一気に叩きのめした。
彼女の強さが、伝わってくる。
彼女の意志も伝わってくる。
でも、彼女の瞳が悲しんでる。
胸が苦しくて、押しつぶされそうになる。
***
雨が降り始めた。
全てを洗い流すように、ザーザーと音を立てて。
結局、彼女は誰の手も借りず、ひとりで不良を倒した。
兄のときほどではないが、返り血も多少浴びている。
「・・・・・雲雀、・・・・・・さん?」
口の中が痛いけれど、気にせず声をかけてみた。
彼女はビクッと震えた後、こちらを見た。
「っ・・・・」
とても、悲しそうだった。
彼女の頬を、涙が何度も伝った。
雨に紛れているが、俺にはわかった。
「あ、あの・・・・・・・」
ダッ
彼女は雨の中、道路のほうへ走っていってしまった。
追いかけようとしたが、間に合わなかった。
「10代目!!」
「ツナ!!」
気がつけば、山本と獄寺君が目の前に居た。
獄寺君はこの世の終わりのような顔をしている。
(手の中には、優しくヒバードを包み込んでる)
「人質って・・・ツナだったのか!?」
「すいません10代目!まさかこんなことになるなんて・・・・・!!」
「だ、いじょうぶ・・・・」
「あと、この不良のやられよう・・・・・がやったンスか?」
「!?なんで・・・・」
「さっき、ここに来るまでにが走っていくのを見たんだよ。
学ラン着て、雲雀の髪に似せた鬘までかぶって・・・・・・・」
「ああなるんだったら、俺が止めればよかった!!くそっ!!」
「ご、獄寺君落ち着いて・・・・俺も、彼女に今まで酷いことしてたし・・・・」
「10代目・・・・?」
「ツナ・・・・・?」
「ああ、そうだなツナ。お前はを避けてたもんな。」
目の前のドラム缶の上に、リボーンがレオンの傘をさして立っていた。
「リボーンさん!」
「いつの間に!?来るのが遅いよ!!!」
「相変わらずすげーのな!」
「『雲雀恭弥の妹』ということが怖くて、嫌で近づかなかったんだろ。
ツナ、お前はあいつ自身を見なかったんだ。」
「っ・・・・・・。」
「何かを通して見られるなんざ、お前だって良く思ってねぇはずだ。」
『10代目』としてじゃなく、
『沢田綱吉』として、世界に、皆に認めて貰いたい。
何かを通して見られるのではなく。
「俺、どうすればいいのかな?今更気づいたんだ。
雲雀さんの妹だとしても、彼女は彼女なんだ。
あんなに優しい彼女が、怖いはず無いんだ。初めて会ったときに分かってた筈なのに。」
「いてて……あぁ!!だ、大丈夫ですか!?」
「いたた…私は平気ですよ。貴方の方こそ大丈夫ですか?」
「あ、俺は大丈夫です!!すいません…俺、前見て無くて……」
「いえ、私も上の方を見ていたし………!!」
「彼女の優しさと、心の中にある暖かい『強さ』。
それを、俺は勘違いして、馬鹿みたいに怖がって、避けてたんだね。」
ただただ語る俺を、雨の中皆は静かに聞いてくれた。
雨の音と、俺の声だけが響く。
「なんだかね・・・・」
「「?」」
「・・・・・。」
「今、彼女にすごく謝りたい。」
「それでもって、すっごく仲良くなりたい。」
(『今更』なんて、最低かな?)
「いいんじゃないでしょうか?」
獄寺君の声に、俯き加減だった顔を上げる。
「そうだぜ、今からでも大丈夫だって!
今までの時間分、うんと仲良くなろうぜツナ!!」
「獄寺君、山本・・・・・」
「確かにそうだな。今までのツケ、しっかり払ってやれよ。」
雨は、次第に弱くなってきた。
やっと終わったね
(明日からが、俺にとって彼女との始まりとしたいな。)
(こうして今までの日々が終わることを願うんだ)
(待たせてごめんね)
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